前田歯科医院・恵比寿分院を作るまで

 

私は、母、兄、叔父など、8人の親戚が歯科医師という環境の中で、前田歯科医院(本院)で約10年間勤務医として働いていました。私の最愛の父から、開業の話を持ちかけられたのは、平成5年の頃でした。

父は歯科医師ではなく、会社経営、学校経営などを生業としておりましたので、いわゆる一般的な歯医者らしい考え方を持たず、時代に合った進歩的な考え方の持ち主でした。

父は私に、「誰でも作れる歯科診療所であれば、この厳しい時期に開業する必要は無い。何か面白いことを考えてみろ。」と言い渡し、私の試行錯誤が始まったのです。

まず、治療の内容については、今まで通り、患者さんに良く説明する。なるべく痛くない治療を心がける。患者さんが不安な気持ちにならないような環境の中で治療を行う。などなど、10年間、ノークレームで頑張ってきた中で作り上げたビジョンが確立していましたので、そのまま生かすことにしました。

突然ですが、すべての患者さんは、これから行われる治療内容について、知る権利が有ると思うのです。もちろん私達、歯科医師は、それを説明する義務が有ると考えます。

患者さんと私達は、本当の信頼関係が確立してこそ、両者が治療に専念できる環境が出来あがるのではないでしょうか。

ですから、もしも私自身の歯が悪くなり、治療が必要になった時には、私自身に診てもらいたいと本気で思います。

 


 

さて、診療所のハード作りでは、辛かったけれど、本当に楽しい日々を送りました。

コンセプトは「歯科医院らしくない診療所」に決めました。

ここで、私が所属している「日本バイオミュージック学会」について、簡単に説明致します。

同学会は音楽を通じて、知的障害を持つ患者さんなどの心のケアを行ったりする団体で、音楽療法士という国家資格を取得する為に加入しなければばらない学会です。私自身、3歳からピアノを始め、現在もコンピューターを使った演奏や、バンド活動を行っているなどの単純な理由から、趣味の音楽と映像を診療にも取り入れる事にしました。

エレベーターホールの床には、『これからの日本歯科界の舵取りをするんだ! ワタクシは!!』という、今、冷静に振り返ってみると、まさに前後不覚、前代未聞、空前絶後、阿鼻叫喚などの四文字熟語を列挙せざるを得ないような、怖いもの知らず的な考え方から、タイルメーカーのデザイン部門に「船の羅針盤」をイメージしたデザインタイルを特注したばっかりに、なかなかデザインが決まらず、よもや、開業日までに間に合わないのではないかという目にも会いました。

  • 待合室は暖色系の照明や間接照明とし、木目のアコースティックピアノを置き、落ち着いた雰囲気を作る。

  • さらに、440チャンネルの有線放送番組から好きなジャンルの音楽を選び、カプセルタイプのボディーソニックシートで、重低音の体感振動と共にリラックスしてもらう。

  • 診療中、目の前の恐ろしくもおぞましい治療用器具や薬ビンから気をそらしてもらうように、待合室のテレビモニターのみならず、4台の歯科治療椅子の前にも28型以上のテレビモニターを置き、椅子ごとに流す映像を選択できるような機材を導入し、「ハイビジョン・レーザーディスク」や「DVD」などの環境映像を常に放映するシステムを作り上げる。


文章で書くと、たったの「3行」。この「3行」を実現するために、本当に過労死してしまうのではないかという目に会いました。

大手電器メーカーに配線図と配線の見積もりを依頼した所、なんと150万円かかると言う。しかもケーブル代は別途で!!!

しかし、何としても実現させたいという気持ちが収まらず、自分で配線図を作り秋葉原に出向き、900メートルものケーブルを買い付け、内装屋さんを拝み倒し、床にタイルを張るのを2日だけ延ばしてもらえる事になりました。

48時間もの間、昼夜の区別なく、ただ黙々と1人でケーブルと格闘し、ついに曳き終わったと感涙にむせぶ間もなく、今度は数百個のジャックを「テスター」片手に、「ハンダごて」で「ハンダ付け」するという、史上最悪の肉体労働が待ち受けていたのです。

始めのうちは火傷したり、ケーブルを焦がしたりと前途多難でしたが、数十個こなすと、関東電気保安協会もビックリという程に上達し、無謀な計画の中枢が完成しました。しかし、精神を集中しての細かい作業は、本当に疲れるのだなと実感しました。

 


 

ケーブル関連がひと段落し、次なる準備は「アロマテラピー」。

アロマテラピーに関する書籍を読みあさり、基本的な技術を習得した結果、歯科医院特有の消毒薬や薬の不快臭をやわらげるため、数カ所にアロマランプを設置し、ラベンダー、ベルガモット、サンダルウッドなどの、神経系を鎮静させるアロマテラピーを行う事にしました。これは、かなり効果があったようで、「ここは歯医者クサクないね。」という声が多く聞かれました。

 


 

そして最後の大仕事。前田歯科医院のパンフレット作成です。

開業前、恵比寿で開業する話を、仲の良いある患者さんにしたところ、「歯医者の看板って、診療時間や休診日くらいしか書いていないから、どんな歯科医院なんだろうって、不安になるよね。診療所のパンフレットでもあれば、気持ち的にも楽になると思うけど…」という貴重なお言葉を頂戴しました。

その患者さんは、実は広告代理店の社長さんで、その道のプロフェッショナルだったのです。

実に素晴らしいキャッチコピーを作って下さり、パンフレットに載せる写真もプロのカメラマンに依頼するという話がまとまりました。撮影当日、ワゴン車一杯の写真機材と共に現れたプロカメラマンは、シャッターを押す時に私達がガヤガヤしゃべっていると、「おまえら、やかましい!! あっちへ行ってろ!」と叫ぶ程、熱心に撮影して下さいました。

さぞかし高額なギャラを請求されるんだろうなと思い、広告代理店の社長さんに恐る恐る聞いてみたところ、撮影のギャラはいらないとおっしゃるので、それは困りますなどと押し問答となり、結局、撮影終了後に赤ちょうちんで一杯やるだけでOKという事になってしまいました。さらに、パンフレット作成にかかる費用は、紙代と印刷代だけという、破格の値段でした。

この恵比寿の診療所は、たくさんの方の暖かい協力がなければ、完成出来なかったと思います。

 


 

開業して3年が過ぎました。

これからも、初心を忘れることなく、患者さんのための歯科治療を続ける所存です。
厳しい御指導、御鞭撻を賜りますよう、重ねてお願い申し上げます。

1999.11.12
前田歯科医院 院長  前田 敬